それが大きな皿に盛られてトーンと出てくる。
いたってゴージャスである。
その味はというと、さっぱりしているのに、しっかりしたうま味があり、舌先でやわらかくつぶれるミニトマトの食感がすばらしい。
濃厚だが、しつこくないので、いくらでも食べられる。
長年トマトを食べてきた私にとって、忘れられない味の1つだ。
そのときナポリに行ったのは、別にトマト料理を食べるためではない。
イタリアでトマトが食用として普及しはじめるのは18世紀に入ってからのことだが、ナポリ近郊で栽培されているトマトの品種と、その伝統的な保存法を調査するのが目的だった。
日本ではトマトといえば生という固定観念があるが、トマト料理の本場イタリアでは、むしろ保存食としてさかんに活用されている。
このスカルパリェッロもその1つで、缶詰でつくられていた。
ヴェスヴィオ山麓では昔から、ポモドリーニヴェスヴィオ(ヴェスヴィオのミニトマト)と呼ばれるミニトマトがさかんに栽培されている。
澄んだ青空の下、丘陵地帯にえんえんと小麦畑、露地栽培のトマト畑が広がっている。
日本ではちょっとお目にかかれない、気持ちがはればれとする風景だ。
私がおじゃましたMさんのお宅も、そうしたトマト農家のうちの一軒だった。
この地方の農家は7月中旬に、ポモドリ・ニヴェスヴィオを収穫すると、干し柿のように軒下に吊して保存し、そこからその日に料理するぶんだけ使う。
一房5~6キログラムぐらいの真っ赤に熟したミニトマトがずらりと農家の軒下にならんだ光景は、なかなかの見ものである。
一家3人のMさんの家では、1年間に使うトマトとしてこの房を120房ぐらい吊していた。
この地方は乾燥地帯なので、吊したままでもトマトはまったく腐らない。
7月の中旬から秋までこの状態で日陰干しにして、冬の間は室内で保存し、春になったらまた屋外に出して日陰干しにする。
こうしておけば、7月から翌年5月までほぼ10ヵ月間この状態でとっておける。
だんだん乾燥してくるが、こうして保存したトマトは、乾燥すればするほど味が濃くなり、料理のベースとして使うにはもってこいなのだ。
ポモドリ・ニヴェスヴィオは、甘いものが多いミニトマトの中でもとりわけ甘い品種で、イタリアでもこの地方でしかつくられていない。
Mさんの話によれば、およそ100年前、祖父母の時代から栽培しているという貴重な在来種である。
さいわい種子を分けていただくことができ、日本にもち帰ってから、研究所の畑で栽培する品種の1つに加えている。
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